「ビル、フラーと付き合ってるってホント?」
「…ん?誰から聞いた?」
「ジョージとフレッド…」
「あいつらは一体何処から聞き付けてくるんだ…」
「ホントなの!?」

フラーは三大魔法学校対校試合にボーバトンの代表だったとってもカワイイ子。
ヴィーラの血が混じってるらしくて僕もいつもうっとりしてた。
でも、ビルとは別。
フラーは好き。ビルは大好き。その差はとっても大きい。
だからビルとフラーが付き合ってるって聞いて凄くショックを受けた。
ビル休みに帰ってくるといつも僕が寝る時、部屋に来てくれて「大好き」っておでこにキスしてくれてたのに…近頃は「おやすみ」の一言。
勿論部屋にも来てくれない。
これが普通の兄弟の接し方だってわかってるよ。双子やジニーにはキスしないもん。
ビルの「大好き」凄く好きだったのに。

「ロン、もう寝なさい。風邪が悪化するぞ」
「…ん」
「後からフルーツ持って来るからな」

頭をくしゃりと撫でてビルが部屋から出ていこうと立ち上がった。
僕は風邪で節々が痛むのを我慢して咄嗟にビルのシャツを掴んで、ずっと気になってた事を問い掛けた。

「ビル…フラーの事好き?」
「…ああ、好きだよ。おやすみ、ロン…」

僕よりも?
その言葉は声になることはない。ニッコリ微笑んで優しく残酷な答えを口にされたから。
嘘なんかじゃないんだろうな…ビルはこの世で最も大切な人を見つけたんだ。
家族とか友達かとは違う別の大切。家族止まりの僕には絶対になれないんだ。
…なら、祝福してあげよう。
ビルもフラーも好きだから、二人が幸せになれるように。二人が悲しまないように。
いつも祈るよ…そして僕は…。
熱でぼぅとした頭が睡眠を求めているのに逆らわず、僕は瞼を閉じた。




真っ暗になる瞬間見えたのは、窓の外を真っ白な世界に変える冷たい雪だった。

「ロニィ〜、起きてるか?」

双子のハモった声てドアをノックする音で目が覚めた。
部屋の中は暗くて、凄く寒い。きっともう夜なんだろうな、ってぼんやりと考えてると、またドアがノックされた。
同時にジョージとフレッドの話し声も。

「まだ、寝てんじゃね?」
「かもなぁ。後にする?」
「あ!待って、僕起きてっ…けほっ」

いきなり掠れた大声をあげたせいで喉がビリリって痛んで、思いきり噎せこんじゃった。
ヒンヤリとした空気が喉を刺激して痛い。苦しくて、目がじんわり潤んでくる。
けほけほ噎せてると、部屋が明るくなって二人が僕の両サイドに座って笑いながら背中を摩ってくれた。
背中の手が暖かくてだいぶ落ち着いたとき、フレッドがイチゴやオレンジ、ブドウにモモとフルーツの沢山乗った皿を差し出した。
その量にびっくり、僕んちのどこにこれだけの物があったのかってくらい。
ジョージがイチゴを一粒取って、僕の前に差し出してくれた。

「ほら、フルーツ食べるだろ?」
「ホントはビルが持って行くハズだったんだけど…」
「愛のフクロウ便が来たんだ」
「…ビル?誰それ?お客さん?」

フレッドとジョージが顔を見合わせて同時に僕を見た。二人とも凄く驚いている顔してる。
僕、なんか変な事言った?だってビルって名前初めて聞いたよ。
不思議な顔して二人を見てると、フレッドが杖を取り出して一振りした。
すると蝋燭がふよふよと宙に浮いて僕の前で止まった。

「ロン。これは何本だ?」
「3」
「これは?」
「…………よ、47?」
「僕は誰だ?」
「フレッド」
「僕は?」
「ジョージ」
「「この鍋底おかしくないか?」」
「どれだ!?」
「「これは?」」
「パーシー。…もう、何なんだよ」

僕、普通だよ?何ともないよ!と文句言うけど二人して「普通じゃない」って…なにが!?
数だって数えられる、ハリーやハーハイオニーだって覚えてる、勿論クディッチだって!おかしいっていったら風邪気味の体調くらいだし、その他至って平常だよ。
双子の掛け合いに疑問を持ったみたいのパーシーが僕を見て「何だ?」って目してるけど、僕にもよく分からないって言ったら視線を双子に戻した。

「どの鍋底だよ?」
「…ぁあーごめん。至って普通だったよ」
「うん。基準通りの鍋底の見本って言っていい位の鍋底だよ」
「何だそれ…ったく、僕は忙しいのに。今度は箒の柄の太さの報告書があるってのに…大人用と子供用の2パターン作らないといけないんだ…」

ぶつぶつ言いながらパーシーが部屋から出てった。
今度は箒か…もう当分パーシーの前では箒の話はしないようにしよう。
ハリーにも言っとかないと。
しにても、さっきから何なんだよ?まるで僕がおかしくなったみたいに扱って。
二人ともまだ見合って内緒話してるし…もういいよ。ずっとそうしてればいいさ。
目の前のブドウに手を延ばしたら、僕が取る前にジョージにその皿を取り上げられた。

「もう!いい加減にしてよっ」
「それだけ元気なら下に来て一緒に夕飯食った方がいいだろ?」
「そうだ。今日はウィーズリー特製カレーだし」
「え?カレー?……行く」

カレーって聞いた途端お腹がキュルルル…ってなって、凄く腹ぺこな気になるから不思議だよ。
「暖かくして来いよな」って言って二人は先にキッチンに向かって部屋から出て行った。
すぐにカーディガンを羽織ってキシキシと音を立てる階段を降りていくと、美味しそうなカレーの匂いと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。この頃はずっと部屋で一人でご飯食べてて…別に寂しくなんてなかったけどさ!
…やっぱ皆で食べる方がいいなって改めて実感したんだ。
キッチンに入るとママが少しびっくりしたような顔で近寄って、僕の額に掌を当てて熱を確かめた。

「そうね、風邪はもう大丈夫かしら…。…ロン、本当に他に悪いところないわね?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だって」

やけに心配そうなママを振り切ってテーブルの端っこの開いた椅子に座った。テーブルの上にはカレーやフルーツサラダ、冷たいスープや色んな種類のパンが沢山並んでいる。
隣に座っているチャーリーが2、3個パンを皿に乗っけてくれた。
そこで何だか妙な事に気がついた。ジニーとチャーリーの間に誰か知らない人が座ってるって。
赤毛でポニーテールで象牙のピアス…誰だか知らないけど、何だか…何だか、怖い。
初めて会ったのに、この人の近くにいたくないって本気で思う…変なの。

「…ロン?」

わ!話し掛けられた!どうしよう…。
心臓がドキドキして、背筋がゾワッてした。

「…は、じめまして…こんばんは…」

チャーリーの影に隠れるように呟くと、テーブルがシーンってなって皆が驚いたような表情を僕に向けている。
パパは食べかけのパンを落として、ママとジニーは開いた口の前でスプーンが止まっている。
フレッドとジョージは顔を見合わせて変な顔して何か相談してしてるし。
またおかしい奴扱いか?
その人から身を出すようにテーブルに乗り出したジニーがオズオズと喋りだす。

「…ロン、ビルよ?」

ジニーはまるで僕がこの人を知っていたかのような口調だ。
そりゃ赤毛はよく似てるよ。
でもそれ以外全く誰とも似てない。
それに、この人には近づけない何かがあるんだ。…悲しくなって、切なくなって…寂しい。
訳のわからない感情に押し潰されそうになって凄く怖くなるのは確かなんだ。
だけど…ちらっと見えたその人の辛そうな顔見たらズキンって胸の辺りが痛んだのも確か。

「…ロン」
「っ!ゃ…!」

立ち上がって僕に手を延ばす。
僕はその手から逃れるように体を後ろに引いて避けた。
勢いよくさがったせいで椅子から転げ落ちて、尻餅をついた状態でその人を見上げる。
僕もその人もパパやママ、皆も指一本、まるで呼吸さえも止まっているように動かない。
暖炉の火が跳ねるパチンって音以外何も聞こえなくて、誰かが魔法をかけて時間を止めたんじゃないかって思えた。
気まずい雰囲気に耐えられなくてガクガクと震える体に力を込めて誰の顔も見ず早口に言葉を紡いだ。

「あ…僕やっぱご飯いらないっ…おやすみ」

部屋に戻ると明かりも付けずにベッドに潜り込んだ。
脳裏に浮かぶのはあの人の辛そうな顔。
何でそんな顔するの?
恐れを感じるのは変わらない。
でもそんな顔してほしくもない。
あたなは誰?どうしてこんなに僕の気持ちを揺るがすの?




次に目が覚めた時は窓から射す光で部屋中明るかった。
冷気が肺を満たす感覚に震え、手近のカーディガンをさっと羽織ってベッドから出た。
隣のベッドからはフレッドとジョージのリズムよい寝息が聞こえる。
昨日の夜夕ご飯を食べそこねたお腹がキュルルとなった。
きっと下ではママが朝ごはんの用意をしている頃だし、何か食べさせてもらおう…。

「おはよう、ママ。お腹空いた」
「あら、早いわね。ちょっと待ってなさい」

出て来たパンにかぶりついてたらチャーリーが欠伸をしながら降りて来た。
チャーリーは何時もこんな早く起きてるんだ。
向こうも僕が起きてるのにびっくりしたのか、幻でも見てるのかと思うように凝視してる。
失礼だな。

「どうした、ロン?まだ具合悪いんじゃないのか?」
「なんだよ、それー。お腹空いたから起きちゃったんだよ」
「そうむくれるなって。そうだ、久しぶりにチェスでもするか?」
「やる!今度こそ勝ってやる!」

今までどうしてもチャーリーに勝つ事が出来なかった僕は残りのパンを一気に頬張って、勝負に挑んだ。
先手はチャーリーだ…。
うん、いい感じ。思い通りの展開に初めての勝利の予感が湧いて来たぞ。
いつの間にかギャラリーも増えてチャーリーの後ろにはジニーが、僕の後ろにはフレッドとジョージが勝負の成り行きを見守っていた。
あと一息…あと…あ…ああぁ!

「チェックメイト。まだまだ詰めが甘いな、ロン」
「くっそー!また負けたぁ!」
「ロンがチャーリーに勝なんて100年早いよ」
「せめて僕たちに常勝するようになってから挑むんだな」
「なんで二人がえばるんだよ!?」
「まぁまぁ、しかし、いいせん行ってたよ。こりゃもうすぐ負かされるかな」
「本当?やった!」

嬉しくてガッツポーズしてたら玄関の扉が開いて外から雪まみれのあの人が入って来た。
僕はすぐに隠れるようにフレッドの後に下がって、なるべく見ないように視線をずらす。

「あらあら、雪まみれじゃない。早く暖炉の所へ行きなさい」
「おはようビル兄。どこか行ってたの?凄く手が冷たいわ」
「ああ、ふくろう便を出しに…」
「あぁ、愛しきフラー」
「お前の為なら火の中水の中雪の中ドラゴンの腹の中…」

…フラー?
その名前聞いた途端、心臓がドキドキして息が苦しくなった。
頭がずきんずきん痛んで、二人の話し声が遠くに聞こえる。
霞んだ目の前にいつの間にかあの人がいた。僕に向かって手を延ばしてる。

「ロン?顔色が悪いぞ?」

黒いドロドロした手。
捕まれば飲み込まれて、はい上がれなくて、死んでしまう。
暗い暗い闇の底。そこにあるのは、自責?後悔?憎悪?悲痛?

−誰に対しての?−

「来るな!」

叫んだ瞬間フッと目の前が真っ暗になって僕の意識はそこで途切れた。
狂いだした歯車は錆びて壊れるのを待つだけ。









-------------------------------------------------------------------------------------------
久しぶりのハリポタでしかも初ビルロンなのに
続いてしまった・・・。
お題そのままの内容だし・・・